カミングアウトという契機

 最初のカミングアウトというのはやはり大きなものです。その後のいろいろなきっかけになります。初めて他人に自分の性的指向をうち明けることで、それまで漠然とかかえていた不安、あるいは、本来罪であるはずなどないことなのに、宗教などの権威が、何故だかそれを歪めて捉え、社会に不確かな情報を流すせいで抱いていた罪悪感、そういった多くのことから抜け出すことができたのです。

 僕が、まず、最初のカミングアウト後にしたことは、インターネットを通じて、ゲイにコンタクトをとることでした。今まで、気になってのぞいてはいたものの、自分がゲイだという自覚がはっきりしないために、掲示板への書き込みとか、サイト管理者へのメールとか、そうしたことを一切していなかったのですが、最初のカミングアウトを契機に、それがすべて自由なこととなりました。自分で制限していた自由ですけれど。

 実際に、ゲイが集まるイベントへ出かけてみたり、ゲイの出会い系サイトへ書き込んでみたり、下っ端の医者として働いている限られた時間のなかで、いろいろと動いていました。この時期は、カミングアウトで開放感を感じたあと、すぐやって来た、焦りの時期でした。僕が20代後半になってようやく足を踏み出したゲイの世界に、10代の若者たちが、すでに性的指向を自覚し人生を謳歌していたのです。今振り返れば、その多くは表面的なものだったのかも知れませんが、少なくとも当時の僕には、それが輝ける人生に見えたのです。