日本財団会長の同性愛嫌悪

 大変ごぶさたしております。
 アメリカ合衆国ではオバマ新大統領が宣誓式を行いました。ところで、昨年11/4のアメリカ大統領選の陰に隠れて、住民投票によって可決されたProposition 8というものをご存じでしょうか。これはカリフォルニア州で、同性間の結婚を廃止するための憲法改正案です。5月に同州最高裁が出した同性婚を認める判決を覆すものです。また、その同じ日に、フロリダ州アリゾナ州でも同性婚禁止が可決されてしまいました。
http://en.wikipedia.org/wiki/California_Proposition_8_(2008)
 多数派には制定少数者(マイノリティ)の思いというのはなかなか伝わりません。子供を産めない同性愛者がなぜ結婚をという声は常にきこえてきますが、現代社会において、結婚という届け出をすることによってのみ受けることのできる恩恵と、結婚できないことによる不都合というのは数え切れません。
 残念ながら、日本にはまだ同性婚やパートナーシップの制度は存在しません。しかし、同性婚やそれに準ずる制度は、多くの国で権利として保障されています。このProposition 8が特に異常なのは、すでに裁判所が憲法に基づいて同性婚を認め、何組もの同性パートナーが誕生しているのに、わざわざ憲法を改正してまでこれを覆したことなのです。住民投票の結果、52.3%がこのProp.8に賛成したのですが、これは、数の力で少数派の人間の権利を剥奪したということなのです。さらには、過去に認めた同性婚を遡って取り消せという運動もあるようです。
 しかしその一方で、「ロサンゼルス・タイムズ」や「ニューヨーク・タイムズ」などのアメリカを代表する新聞や、GoogleAppleなどの有名な企業などがこのProp.8に反対の声を挙げています。また、特筆すべきはプロテスタント主流派、カトリックユダヤ教などの多くの宗教団体が、Prop.8に明確な反対の声を挙げてくれているのです。かつて同性愛に対して不寛容な宗教についての苦言を述べたことがありましたが、今回のこうした動きは非常に心強いものだと思います。特に西洋人にとっての宗教というのは、我々日本人には想像に難い大きな存在でしょう。
http://www.noonprop8.com/
http://www.noonprop8.com/about/who-opposes-prop-8
 そうしたProp.8の話題を導入に、日本財団(日本船舶振興会)の会長、笹川陽平氏が、自身のブログにおいて、1/21に「同性愛!! 二大超大国 アメリカと中国」と題してホモフォビアを隠さないエントリを記しています。
http://blog.canpan.info/sasakawa/archive/1734

アメリカでは、今から50年近く前でも同性愛は珍しいものではなく、「アメリカ訪問時は同性愛に気をつけろ」と注意されたものである。バス停で待っているとキャデラックが停まり「どこに行くんだ? 送ってやるよ」としばしば誘われた。また知人の家を訪問した折には大の男が二人、一つのベッドに寝ているのを見て気分を悪くしたこともある。

当時は1ドル360円時代である。日本からの貧しい留学生は、保証人や住宅の確保を善意のアメリカ人に頼らざるを得なかった。そうした善意のアメリカ人の中にも同性愛者がおり、興味本位か経済的理由であったのかは知らないが、彼らによって、その道に入った日本人留学生もいた。

サンフランシスコでは随分前から、市長選挙は同性愛者の支持なくしては絶対当選しないといわれ、強い影響力を持っている。

私自身は、性同一性障害という不幸な病気を背負った人のいることは承知しているが、同性愛はどうしても理解できない。

現在、中国の同性愛者は約3000万人といわれ、最近までは精神的障害者として精神疾患の公式一覧表に掲載されていた。ところが中国社会科学院の李 銀河研究員の調査によると、「同性愛者であることが職業選択にあたって不利な条件になるか?」との調査で「ならない」と答えた人が米国の86%を超えて90%であるという。この結果「中国社会が、同性愛により寛容になったことは大きな進歩だ」としている。

近頃は公共の場で抱き合ったりキスをする姿も珍しくはない。一人っ子政策の結果、男女の比率は男130に対し女100。この数字は将来更に同性愛者が増加することを意味している。

同性愛者が異性愛者と人格的に平等で、雇用も平等の機会を持つ社会になったというアメリカと中国は、同性愛者の二大超大国である。

 ハンセン病患者への差別根絶に取り組む一方での、同性愛者へのこの無理解、いや無理解というよりもむしろ悪意と差別しか感じられないこのエントリに幻暈がします。

みなさまのご意見を拝聴しました。こんなに沢山のコメントが寄せられるとは思ってもみませんでした。コメントが沢山寄せられた為、回答のコメントをします。


性同一性障害について

性同一性障害の方が、不幸と思われていない事、また、私が不幸であると書いた事に憤慨されている事は判りました。気分を害された方には謝ります。


同性愛について

残念ながら、私は異性愛者です。この為、同性愛という物がどうしても理解できません。理解できないと言うか、受け入れられません。

考えてもみて下さい。1つのベッドに大の大人が二人、寝ている。それも男同士。だきついていたりもしたら、身の毛もよだつ事です。この感覚は判っていただけますでしょうか?それがへんでないとおっしゃるのなら、そう思っていればいいのです。しかし、この世のほとんどの人は口に出さないだけで、実際は軽蔑し、生命倫理に背く行為か、気持ち悪いと思っているでしょう。

同性愛が自由だとおっしゃるのは自由です。でも、それと同様に私が同性愛が理解出来ないとブログで書く事も自由です。

その点は反論させていただきます。

私は絶対に同性愛は指示しません。
Posted by: 笹川 陽平  at 2009年01月24日(土) 00:39

 上記引用の「指示」は原文ママ。ちなみにこれはコメント欄に書かれていたものなので、本人の返答かどうかは厳密にはわかりません。
 嗜好では無く、修正不可能な「性的指向」と、それを受け入れられずに苦しみ自殺さえ選択してしまう若者のいる現況、同性愛者に対し死刑を含む刑罰を科す国から難民まで発生している状況を全く理解されていないようです。男性の比率が高くなった中国では、自然同性愛者が増えるという不思議な論理まで飛び出す始末です。
 多数派である人間にとって、我々が理解しがたい存在であるというのはわからないでもないですが、「ハンセン病への差別を無くそう」といっている人間が、一方で「同性愛者は気持ち悪い」と言っているというのはどうにも愚かしいことであると思います。
 当該記事に寄せられた批判のうち、特に思春期の若者たちの悲痛な叫びが、完全にかき消されてしまっているということには強い哀しみを感じています。
 追記。1/24付けで「お詫び」が掲載されたようです。
http://blog.canpan.info/sasakawa/archive/1755

21日付で掲載した「同性愛!!二大超大国 アメリカと中国」に多数の抗議、批判をいただきました。アメリカ同様、中国でも同性愛に対する社会的認知が進んでいる事実を紹介するのが趣旨でしたが、長年、世界の「ハンセン病患者、回復者に対する偏見差別」の撤廃活動に邁進してきた者として軽率な発言であったと反省しております。

同時に同性愛や性同一性障害の方々がいわれない差別や中傷に直面されている現実、さらにその背景にハンセン病と同様の差別の構造があることをあらためて知りました。性同一性障害を「病気」などと記した軽率さも恥じています。

今回の経験を真摯に受け止め、思いを新たにしてライフワークであるハンセン病の制圧と偏見差別の撤廃に向け活動を続けたいと思います。

掲載日当日からからロンドンに出張しており、対応が遅れたことを併せてお詫びします。なお24日付のコメント欄に私と同名の「Posted by 笹川陽平 2009年1月24日(土)00:39」の書き込みがありますが、私とは一切無関係であることを申し添えさせていただきます。